レジリエントなサプライチェーン構築に不可欠なプロセス・エクセレンス(後編)

前編ではプロセス・エクセレンスとサプライチェーンの関連性と、ビジネスプロセス基盤の構築についてお話しました。後編では、デジタル情報基盤の構築と、プロセス・エクセレンス確立後のサプライチェーンについてお話しします。

目次

3. デジタル情報基盤の構築

(1)プロセスデータの活用とその価値

プロセスマイニングと総称されるITツールがヨーロッパで紹介され始めたのが2000年代後半。このツールの特徴は、業務分析を通して作成することが多いビジネスプロセスをイベントログから自動的に作るという点である。今ではプロセスマイニングはBPMプラットフォームを構成する主要機能の一つに統合されつつあり、体系化されたビジネスプロセスとプロセスデータでデジタルツインを実現する重要な役目を果たしている。


サプライチェーン内のプロセスの多くがITシステムを介して行われているため、論理的には一企業のサプライチェーンのデジタルツインを構築することは可能に思われるが、欧米のそれと比較して日本では大きなハードルが存在する。プロセスデータの欠落である。

(2)プロセスデータがない日本

日本におけるITシステム導入プロジェクトは欧米のそれと比較して、業務実行面への意識が強く、そこから得られるデータの意義や活用方法といった業務管理面への意識が気薄だと感じる。在庫管理や物流といった現場業務が多く含まれるサプライチェーンにおいても、業務一つ一つの意味合いやその業務の結果がどのような影響を持つかというような観点でビジネスプロセスが語られることは少なく、如何に手数を少なく処理をこなせるか、ITシステムとはそれを支援するために存在するかの如くプロジェクトが遂行されることがある。

そのようなアプローチの結果、手数が現状と変わらない、または増えてしまうようであれば、敢えてシステム入力はさせず、特定の時間帯にバッチで処理させることでシステム上「処理したこととする」ような機能が具備されることがある。例えば倉庫の出荷工程におけるトラック積込から出荷確定の流れには、ケースやパレット単位でのトラックへの積込業務と、積込確認後のトラックの発送という業務がある。荷主企業と運送業者との契約内容にもよるが、今でもこの「積込」が運送業者で行われている場合があり、その場合には積込作業自体を自社の管轄で行っていないため、システム入力をしない倉庫がある。また、その後の「発送」についても管理しておらず、システム上は夜間のバッチ処理で出荷確定がされる例がある。このようなケースでは、プロセスデータは存在しないため分析不可能となる。物流の危機として2024年問題が取り沙汰されているが、何台のトラックがオンタイムに出発したのか、積込開始時間は適切だったのか、出荷バースの要員数は予定通りだったのかなど、本来ならシステムに蓄積されるべき各種プロセスデータから解析することが可能だが、そのような倉庫ではデータが欠落しているため、トラックの待ち時間の状況や変動、その理由について解析することができないため、施策を打つことが困難となる。

(3)テクノロジー活用とプロセスデータ

サプライチェーンの物流領域の中核である倉庫には、WMSが導入されているケースが多い。大規模パッケージや中小規模のパッケージ、スクラッチ開発のものなど様々な種別があるが、処理の結果プロセスデータが生成される。しかしながら、WMSから取得できる情報はモノに係る情報であり、扱われたSKUや数量、バラやケースなどの形状、どこで、誰によって、何時、どの業務工程が行われたのかは把握できるが、あくまでも主体はモノであり、その業務に投下されたリソースの工数を把握することはできない。

ここで活用が考えられるのがIoTで、作業員や機械の動きをセンサーで検知し、特定の業務と場所やリソースのプロファイルを連動させることで、業務工程ごとの工数を把握することが可能となる。更には、この2つの情報をプロセスデータとして取り込むことで工程別の生産性が割り出せ、標準的な生産性と特定の日の時間別投下人数を元に一連のプロセスのリードタイムを算出することが可能となる。

(4)データオリエンテッドなサプライチェーン

サプライチェーンのプロセスを忠実にデータで可視化することができれば、デジタルツインが完成する。しかしながら、様々なシステムから取得可能なデータの粒度がバラバラで、データの抜け漏れが多く、例えば商品単位のサプライチェーンの工程の一部が取得できなかったり、特定の工場の情報のみコード体系が違うような場合は、デジタルツインの構築は困難なものとなる。そのため、プロセスデータの標準化やサプライチェーンのネットワーク上一貫性のあるデータの収集は極めて重要となる。

ビジネスプロセスを体系化し、標準化されたプロセスデータを活用してそのプロセス上で起こっている状況を継続的にモニタリングする仕組みを確立すれば、PDCAやOODAのような改善プロセスやループを効率的に回すことが可能となり、結果として常にプロセスを最適な状態にすることができる。

図3 デジタル情報基盤(目指す姿)
出典:@Innovative Solutions Inc. All Rights Reserved, 2023

4. おわりに:プロセス・エクセレンスの 確立後のサプライチェーン

プロセス・エクセレンスとサプライチェーン管理は密接に関連しており、効果的なサプライチェーンの構築と運営においてプロセス・エクセレンスの考え方を活用することは非常に有効である。

先進的なBPMプラットフォームツールのように「ビジネスプロセス基盤」と「デジタル情報基盤」を融合したプラットフォーム上では、サプライチェーン上のプロセスがプロセスデータをもって可視化され、リアルタイムな状況に対する各種アラートや蓄積したデータを元にした分析結果によって各種意思決定が可能になるなど、サプライチェーン全体の効率性を持続性のもった形で高めることができる。更にはAI技術の活用で、人の判断を経ることなく、分析結果を踏まえ供給元の変更や在庫拠点の変更なども可能となってくる未来が既に見えている。

そのためにも、プロセス・エクセレンスのアプローチを取り入れ、ビジネスプロセスの確立とデジタル化を通してビジネスプロセス基盤を確立し、プロセスデータの標準化と整備を通してデジタル情報基盤を確立することが今後も様々なリスクに晒されたサプライチェーンを戦略的にマネージするための施策として有効であると考える。
図4 プロセスを中心としたコミュニケー ションでレジリエンスを高める
出典:(株)サン・プランニング・システムズが作成したものを当社で修正
Picture of 木下 雅幸
木下 雅幸

3月になっても雪が降るなんて...
ですが、暖かさが定着してゴルフがしやすい季節も近づいていると思うとワクワクします!