レジリエントなサプライチェーン構築に不可欠なプロセス・エクセレンス(前編)

本記事は流通ネットワーキング11・12月号「サプライチェーンの可視化とレジリエンス」特集に寄稿したものです。前編・後編に分けてお送りいたします。

目次

1. はじめに:サプライチェーンとプロセス・エクセレンスとの関係性

プロセス・エクセレンスとは、組織が業務プロセスを常に最適な状態に構築・維持し、業務の効率化と品質向上を実現するためのビジネスプラクティス であり、組織が育むカルチャーを指す。筆者はサプライチェーンをレジリエントなモノにするための施策として、プロセス・エクセレンスの原則と手法の活用が有効であると考える。以下にてプロセス・エクセレンスの要素に沿って、サプライチェーンとの関連性について記述する。

  1. プロセス最適化
    サプライチェーンは、製品やサービスの生産から消費者への配送に至る一連のプロセスから成り立っている。これらプロセスの現状を把握・分析し、改 善することでサプライチェーン全体の最適化が図れる。
  2. 持続的改善
    サプライチェーンは継続的に変化するため、継続的にプロセスをモニタリングする仕組みを取り入れ、問題の特定と改善というサイクルを確立するこ とで適切な調整や最適化を行うことが可能となり、変化する市場要件に適用しやすくなる。
  3. プロセスデータによる意思決定
    サプライチェーンマネジメントでは、需要予測や在庫管理、生産計画などの意思決定にデータが重要な役割を果たす。プロセスの現状をリアルタイムで 示した情報や蓄積されたプロセスデータを元に分析した結果の情報を活用して効果的な判断やサプライ チェーンの戦略を策定するのに役立つ。
  4. チーム協力と文化
    多くの異なる部門やステークホルダーが関与するサプライチェーンに、プロセス・エクセレンスの文化(プロセス改善に全プレーヤーが主体的に関与し プロセス・エクセレンスを奨励)を導入することで連携とコミュニケーションを向上させ、サプライチェーン全体の調和を図る。
  5. テクノロジーの活用
    効果的なサプライチェーンマネジメントにテクノロジーは不可欠であり、プロセスの自動化や効率化、サプライチェーンの透明性を向上する。

上記の内容に沿った形で、2つの具体的な施策として、「ビジネスプロセス基盤の構築」と「デジタル情報基盤」をそれぞれの章で記述する。

2. ビジネスプロセス基盤の構築

(1)欧米企業のBPMプラットフォームツールの活用

自社の製品やサービスの生産から消費者への配送に至るまでの一連のプロセスが様々な粒度でデジタル化され可視化されている状況を想像してみて欲しい。また、その可視化されたプラットフォーム上に世界中で行われている業務の進捗や結果がリアルタイムで見れるとしたら。

既に世の中にはそのようなプラットフォームがIT ソリューションとして確立・存在している。主に欧米にてBPMプラットフォームツールを導入する企業が増えており、その市場規模は2028年には261.8 億ドルに成長すると予測されている。ビジネスシーンのあらゆるところに何らかのコンピューターが介在し自動化が進み、消費者の手にもスマートフォンが普及した現在、ビジネスプロセスをデジタル化して市場の変化に対応しようとしている。

図1 北米:ビジネスプロセスマネジメントマーケットサイズ 2017~2028(USD)
出典:FortuneBusinessInsights

(2)日本におけるビジネスプロセスへの意識の現状

一方日本では、未だビジネスプロセスはパワーポイントやエクセルで描き上げられ、業務の結果として得られるデジタルデータとの整合性を映し出す手 立てはない。それ以前に殆どの企業では、自社のサプライチェーンという極めて重要なビジネスプロセスを体系的に、持続性を持った形で構築・維持する取り組みがなされておらず、ITシステム導入プロジェクトの度にAs-Isの調査からプロセスフローを作成、その後To-Beの検討からプロセスフローを整備するという活動が行われている。 手順レベルや操作レベルにあたる「どのように(How)」を示すSOP(標準業務手順書)や操作マニュアルは日々の業務を支援するものであり現場に用意されている場合が多い一方、「誰が(Who)」、「何時(When)」、「何処で(Where)」、「誰と(Whom)」、「何を(What)」と いう5Wについての定義が落とし込まれた共通ドキュメントはなく、現状業務を表すものがない状態の企業が多い。これらの企業では、ビジネスプロセスを定義する力が育まれておらず、その結果としてITシステム導入プロジェクトの際には、外部ベンダーにビジネスプロセスの整備を委託することになり、更に習得の機会を失うという負のスパイラルに陥ってしまう。

外部ベンダーは、構築すべきITシステムの要件定義の一環でビジネスプロセスを描くことが多いためあくまでも一過性の取り組みであり、依頼元の企業から指定がない限り、汎用性の高いパワーポイントやエクセルといった類のツールでプロセスフローを書くことが多い。こうして日本における多くの企業のビジネスプロセスは体系化されず、プロジェクト中に多大な工数とお金が注ぎ込まれたて作成されたプロセスフローはその後流用されることはなく、存在さえ忘れられた無駄な資産となってしまう。

(3)ビジネスプロセスの確立と標準化の勧め

サプライチェーンのどの部分にどのような課題があるのか、リスクはどのようなものがあるのか、それぞれはどのように結びついているのか、どのよう な打ち手が考えられるのか、必要なITシステムはどのようなものか。これらを議論する上で土台となるものがビジネスプロセスである。プロセス最適化への道も持続的な改善も今の状況を体系的に示したものがなければ、現状の調査も分析も時間を要し、結果として対策を導くまでのリードタイムは長引く。当社では、「ビジネスプロセス標準化達成レベルチェック」として14段階のチェック項目を設け、それ ぞれのステージに合ったサービスを提供している。

まず、第一段階として「プロセスの標準化」を目標と設定し、プロセスの記述ルールを体系化しBPMプラットフォーム上に整備していく。そしてこれらのビジネスプロセスを関連する部門に幅広く共有化して納得が得られるものとしておく。この第一段階の後半は、整備されたビジネスプロセスに対してWhat-IfシミュレーションやECRS分析などの手法で検証を行うステップに入るが、そのステップに入る上で欠かせないのが、関連する部門の「納得」を得ておくことである。ここが欠落してしまうと現状に対する課題の整理や打ち手となるソリューションを検討・協議する以前に現状認識の違いによる弊害で取り組みのスピードが低下したり、最悪の場合はとん挫してしまう可能性がある。

第二段階としては、ここまでに整備されてきたビジネスプロセスが常に最新の状態となるような取り組みを行い資産化する。サプライチェーンのプロセ スは継続的に変化が生じるもののため、常にビジネスプロセスを最新の状態にしていくことはビジネスプロセスを議論の土台にするためにも重要な取り組みとなる。そのためにも、それぞれの部門内でも担当する業務領域のビジネスプロセスの実態とプラットフォーム上のものと常に対比し、適時必要な更新を行うと共に課題の整理や分析、To-Be検討、更にはリスク管理などに役立てる。このような取り組みを行うことによって、サプライチェーンのプロセス全体像を把握することが可能となり、プロセス改善や改革のサイクルの早期化や常態化が達成できると考える。
図2 ビジネスプロセス標準化達成レベルチェック (14段階)
出典:@Innovative Solutions Inc. All Rights Reserved, 2023
後編は3/17(月)公開予定です。
Picture of 木下 雅幸
木下 雅幸

3月になっても雪が降るなんて...
ですが、暖かさが定着してゴルフがしやすい季節も近づいていると思うとワクワクします!