CLO元年① CLO就任後に着手すべき業務可視化とは
システムより先にプロセス——CLO就任後に着手すべき業務可視化の実践
CLO元年に起きていること
2026年4月、改正物流効率化法が全面施行された。一定規模以上の荷主企業は、役員等から「物流統括管理者(CLO)」を選任することが義務付けられ、物流は経営アジェンダとして扱われる時代に入った。
この制度の特徴は、CLOに「物流の専門家」であることを求めていない点だ。役員等の中から選任すればよいため、これまで物流に深く関わってこなかった経営幹部が任命されるケースも少なくないと考えられる。そのような方にとって、就任直後の問いはおそらく共通している——「まず何をすべきか」。
CLOとして何に取り組むかは企業によって異なるが、「物流改革の手段」として議論が集まりやすいのがシステムへの投資だ。WMSの刷新、SCMツールの導入、DXの推進——それ自体は間違いではない。しかし私たちが見てきた失敗の多くは、この順序を誤ったことに起因している。システムの前に手をつけるべきことがある。
目次
なぜ「システムから始める」のが危険なのか
物流改革の文脈でWMSやSCMシステムの刷新が検討対象になることは自然なことだ。DXの掛け声もあり、「システムを新しくすれば業務が変わる」という期待は根強い。
しかし現実はそうならないことが多い。理由はシンプルだ。
現状の業務プロセスが曖昧なまま新しいシステムを入れると、曖昧さがシステムの中に固定化される
たとえば、倉庫内のピッキング作業を例にとる。現場では長年の経験で動いている「暗黙のルール」が無数に存在する。ベテランが頭の中に持っている判断基準、イレギュラーが発生したときの対処手順、部署間の非公式な連絡経路。これらは文書化されておらず、システムの要件定義の段階では当然すり抜けていく。
結果として、導入されたシステムは現場の実態と合わない。テストやトレーニングの工程で初めてその乖離に気づき、現場から「この機能では対応できない」という声が上がる。後追いで修正・追加開発の要求が噴出し、コストは膨らみ、スケジュールは当初計画から大きく外れていく。これはどこかの企業だけの話ではなく、物流システム導入プロジェクトで繰り返されてきたパターンだ。
プロセス可視化が先である3つの理由
① 何を変えるべきかが明確になる
As-Is(現状)プロセスを可視化すると、どこに非効率があるかが構造的に見える。それまで「なんとなくうまくいっていない」と感じていた問題が、プロセス上のどのステップで・誰の判断で・何が詰まっているかとして特定できる。
これがなければ、システムに何を期待するかの要件が書けない。
② システムの選定基準が変わる
「このシステムの機能が豊富だから」ではなく、「自社のこのプロセスのここを解決するためにこの機能が必要だ」という根拠を持った選定ができる。機能の多さで選ぶのか、自社の課題に対してのフィット度で選ぶのかは、導入後の成否を大きく分ける。
③ CLOとしての経営対話の素材になる
業務プロセスを可視化した成果物は、そのままCLOが経営会議で語るための材料になる。
「どこに投資すれば物流コストが下がるか」「どのプロセスがボトルネックになっているか」を図として示せることは、物流を経営アジェンダとして扱う上での必須条件だ。
具体的にどう進めるか
業務プロセスの可視化は、闇雲に始めると際限なく広がる。以下の3ステップで進めることを推奨している。
ステップ1:スコープを絞る
全社の物流プロセスをいきなり可視化しようとしない。「どこが一番痛いか」——リードタイムの遅延、誤出荷の頻度、在庫差異の発生など——を手がかりに領域を絞り込む。入荷から出荷まで一通りのフローを持つ拠点を1箇所選ぶだけでも、十分な示唆が得られる。
ステップ2:現場を歩いて「As-Is」を描く
多くの拠点では業務プロセスが文書化されていない。あったとしても操作マニュアルや手順書が中心で、粒度が細かすぎる。必要なのはもう一段抽象度を上げたプロセスフローだ。「誰が・何を・どの順序で・何を判断基準に」動いているかを、観察とヒアリングを通じて描き起こす。取得できるデータ(入出荷実績、作業ログなど)があれば解析も有効だ。正確さより網羅性を優先し、「なぜそうしているのか」を掘り下げると、暗黙のルールや担当者しか知らない判断基準が浮かび上がってくる。
ステップ3:改善の切り口を分類する
可視化したプロセスに対し、「排除できるステップはどれか」「標準化できるルールはどれか」「システムに委ねるべき判断はどれか」を分類する。この分類があって初めて、システムへの要件が具体的な言葉になる。
逆に言えば、ここまで来て初めてシステム選定の議論を始めるべきだということでもある。
「標準」から始めるという発想
プロセス可視化が終わった後の選択肢のひとつとして、「Fit-to-Standard」というアプローチがある。自社プロセスをゼロから設計するのではなく、まずシステムが持つ標準機能・業界標準プロセスに自社をフィットさせることを起点に考える考え方だ。
倉庫管理の領域で言えば、入荷・格納・ピッキング・出荷といった主要プロセスには、多くの企業で共通する「あるべき姿」がある。自社の特殊事情から離れ、いったんこの標準に照らして自社のAs-Isを見ると、「実はカスタマイズが必要な部分は思ったより少ない」という発見が生まれることが多い。
カスタマイズを減らすことは、コストと納期を圧縮するだけでなく、将来のシステム更新を容易にし、担当者が変わっても属人化しない運用を生む。CLOが中長期的に物流の標準化を推進する上で、この視点は欠かせない。
まとめ:CLOの最初の仕事は「見えるようにすること」
システムは道具であり、道具は目的が明確になって初めて選べる。CLOとして物流を経営の俎上に乗せるためには、まず「現状を正確に見えるようにすること」が出発点になる。
可視化は地味な作業だ。現場を歩き、聞き、描くことに時間がかかる。しかし、ここを省いたプロジェクトが後からどれだけのコストを払うかを私たちは何度も目にしてきた。
「システムより先にプロセス」——この順序を守ることが、CLO元年にすべての荷主企業が持つべき原則だと考えている。
木下 雅幸
サッカーワールドカップが盛り上がっていますね。
サッカーの世界もデータ革命が起きたように、物流もデータが変革をもたらすと信じています。
物流×ITコンサルタントより。