ビジネス・プロセス・マネジメントは、
テクノロジー導入を成功させるための秘訣なのか、それとも要因なのか?

2022/1/20

Author: Aqmar Zakaria

Translation: 張 志強

8ヶ月前、科学の研究からコンサルティングへの転身を決意し、イノベーティブ・ソリューションズ(ISOL)に入社したとき、私は、「業界に直接的な影響を与えるようなキャリアを積める場所はどこか」そして「どのようにして影響を及ぼすのか」ということを考えていた。ISOLはプロセスを中心に据えた問題解決の場であり、私が関わったすべてのプロジェクトにおいて、プロセスの可視化を学び始めた場でもある。
iGrafxというBPMN(Business Process Management and Notation:ビジネスプロセスモデリング表記法)ツール(図1)を初めて体験したとき、プロセスが会社の業務やプロジェクトの中心にあることを実感した。つまり、BPMNツールを活用し、既存のプロセスをよく理解し、同時にビジネスの世界で何が起こっているかをよく洞察できる企業は、革新、飛躍、成長の機会を察知することができる。

私は現在、アソシエイトDXコンサルタントとして、日本のいくつかの古くから存在する組織が、データ分析が重要視され、環境が急速に変化する時代に成功し、ビジネスの弾力性を保つために、レガシーツール(例えば、紙ベースの文書)と手作業によるプロセスからデータ分析技術に移行していることがわかった。このような企業は、データ分析が正確な洞察力とリアルタイムの意思決定の鍵であると信じている。プロセスは、変革のための要素の1つであり、As-Isプロセス分析から始めて、デジタル技術を取り入れたTo-Beプロセスを設計する。このAs-IsプロセスとTo-Beプロセス間のフィット・ギャップを分析する手法は、ビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)戦略に不可欠である。プロセス分析を用いれば、業務の変革や、最終的には企業や組織に分析主導型の文化の醸成を可能にするため、プロセスのマッピング・可視化ができることは重要である。
そのため、BPMは、ISOLで身につけたい必須のスキルであり、今後の私のコンサルティングのキャリアにおいて、常に心に留めておきたいと思う。

図1:BPMN2.0を用いてiGrafxプラットフォーム上にマップ化されたシンプルなフローチャートの例

以下、BPMと様々なデジタルトランスフォーメーションの取り組み、失敗要因、そしてBPMが組織のデジタルトランスフォーメーションの取り組みの成功をいかに左右するかについて述べる。

さあ、調査を開始しよう。

第4次産業革命の到来からしばらく経ち、企業はテクノロジーへの適応を迫られている。McKinseyによると、パンデミックの影響で、テクノロジーの導入が数年早まっており[1]、アジア太平洋地域では10年以上、ヨーロッパでは7年、北米では6年となっている。IDCが発表したレポート「FutureScape: Worldwide Digital Transformation 2021 Predictions」[2]の中で、企業が世界的なコロナの大流行に対応し、予測不可能な状況に耐えうる持続可能な企業になろうとしていることから、2020年から2023年の間に、デジタルトランスフォーメーションへの投資が6.8兆ドルに近づくと予測している。

デジタル技術への多額な投資にもかかわらず、ほとんどの組織はデジタル「変革」に失敗し、投資の効果が出ていないままとなっている。これは、デジタル技術を導入するための適切なプロセスを理解する能力が、組織に不足しているためである。Tomas Chamorro-Premuzic教授は、自身の論文[3]で、組織のデジタルトランスフォーメーションに不可欠な5つの要素、すなわち、人材、データ、洞察力、行動、そして結果を取り上げている。
これらの構成要素は、組織の業務においてプロセスの可視化を優先していれば、うまく同期することができる。私は、組織がデジタルトランスフォーメーション戦略を成功させるためには、2000年代から経営管理の分野で存在しているビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)手法(後で説明する)を活用し、すべての構成要素を同期させることが不可欠と考えている。

BPMとは何か

ビジネスプロセスとは、人やシステムによって実行される活動やタスクの連鎖であり、完了すれば事業目標の達成に貢献し、事業戦略をサポートする。Dumasらの著書「Fundamentals of Business Process Management」によると、BPMとは「着実な成果を確保し、改善の機会を活用するために、組織内でどのように仕事が行われているかを管理するための人文科学」である。
図2:BPMのライフサイクル

BPMは、よりコスト効率の高い組織を作り、作業の実行時間を削減し、エラーの発生率を最小限に抑えるために、人々がどのようにプロセスを発見、モデル化、分析、測定、改善するかをスコープとする手法である。図2が示すように、BPMのライフサイクルは、プロセスの特定、発見、分析、再設計、実装、および監視という6つの段階からなる継続的な取り組みである。

各段階において、組織全体の業務を正確に把握し、プロセスを事業目標に整合させるためには、プロセスの可視化と明確化が重要である。これらの知識は、潜在的なプロセスの問題を特定し、より良い戦略を策定するためにどのプロセスを民主化できるかを把握することで、組織が競争上の優位性を確立するのに役立つ。さらに、BPMは、トップマネジメントがビジネスの複雑性を理解し、プロセスのパフォーマンスを分析し、組織内のプロセスの継続的な改善や、革新に役立つ [4]。

両利きのBPM

BPMには、「活用型分析」と「探索型分析」の2つのアプローチがある。BPMは既存のビジネスプロセスを活用し、課題解決型のイノベーションをサポートすることが得意である。一方では、活用型BPMは、無駄、ムラ、無理、手作業、不適合などを排除するために利用されてきた。他方で、探索型BPMは、常にアウトサイド・インの積極的なアプローチで推進される。このデジタル時代において、プロセスの探索は、企業や組織が最新のデジタル技術を既存のプロセスに適用し、ビジネスの持続可能性のために組織に変革的なイノベーションを可能にする。探索型BPMは、今日の急速なデジタル世界でビジネスの競争力を維持するために有益である。

しかし、活用型BPMが事業継続性においても重要であることは否定できない。HelbinとLooyが文献レビューで述べているように、「ビジネス・プロセス・マネジメントの双面性は、組織がプロセスの効率性と業務の卓越性を維持しながら、ビジネスプロセスを根本的に革新するための方針と構想を提供する新概念である」。
したがって、両利きのBPMとは、ビジネスの当面の効率と先々の収益確保を目指して、活用と探索のバランスをとることである。両利きのBPMという言葉は、社会や企業におけるデジタル化の取り組みに対応し、BPMの持つ機会や課題解決を起点とする可能性を最大限に発揮し、デジタル時代のイノベーションを推進するものとして、Rosemann教授らによって造られた(図3)。

図3:両利きのBPMにおけるデジタル化、デジタライゼーション及びデジタルトランスフォーメーションの取り組み

デジタル化、デジタライゼーション及びデジタルトランスフォーメーション

デジタルトランスフォーメーションについては多くの記事があり、デジタライゼーションやデジタル化という用語も併せて議論されている。この記事の冒頭でデジタル化とデジタルトランスフォーメーションについて触れている。では、デジタライゼーション、デジタル化、デジタルトランスフォーメーションの違いは一体何なのか?
Gartnerによると、デジタライゼーションとは、簡単に言うと、情報の取り扱いがアナログからデジタルに移行することであり、デジタル化とは、デジタル化された情報とデジタル技術を活用して、価値を提供することによってビジネスプロセスを改善することである。一方、デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル化の先にあるもので、破壊的な変化に積極的に対応するために、組織やビジネスが技術、プロセス、人材などのリソース活用を民主化するための変革を意味する。

ISOLが関わったデジタルトランスフォーメーションの一例として、アスクル・ロジスト(物流会社)が、倉庫での従業員のタスク管理を紙ベースからタスク・トラッキング・システム(TTS:Task Tracking System)と名付けたデジタルプラットフォームへ移行したことが挙げられる。TTSでは、従業員がアプリケーション画面で従業員IDを入力すると、倉庫内で各従業員が作業に費やした時間と総工数が記録・収集され、データクラウドに保存される[5]。TTSと既存の倉庫管理システム(WMS)のデータを組み合わせることで、倉庫内の各従業員や各作業工程の生産性を測定することができるようになった。この取り組みにより、管理者は資源配分を計画し、トラックの出発時間をより正確に予測できるようになるデータ配信を実現した。

デジタルトランスフォーメーション技術導入の失敗

ボストン・コンサルティング・グループが2020年に行った調査では、デジタル・トランスフォーメーション・プロジェクトの70%が目標達成に苦戦していることが明らかになっている[6]。IDCが発表した別のレポートによると、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを阻む要因の1つとして、APEJ(日本を除くアジア太平洋地域)におけるデジタルイノベーションが組織全体に適用されておらず、特別なプロジェクトやサイロ化した取り組みとして扱われていることを述べている。また、組織内の各部門もサイロ化しており、プロセスが可視化されていないため、複数のチームや利害関係者との間の動的な連携が阻まれ、イノベーションが妨げられている。

ベルギーのゲント市が行ったデジタル化の取り組みは、組織内のサイロ化現象が、初期のデジタル投資に結果をもたらさないことを示す良い例である[7]。2014年、ゲント市は、各部門が独自のWebサービスを提供し、顧客が受けるサービスによって異なる複数のIDとパスワードに対応しなければならない複雑なデジタル・サービスが原因で苦情に直面したことから、サービス・プロセス(税金、環境、市民サービスの業務など)のデジタル化の取り組みにBPMライフサイクルを適用することを決定した。

また、組織の業務プロセスのフローチャートがない場合、プロセスの可視化ができていないと、機会を導き出すことができず、意思決定がうまくいかなくなることもある。効果的なプロセスマネジメントなしでは、技術導入がビジネスに最大の価値をもたらすことができず、2~3年後に失敗に終わる可能性がある。これは、アジャイル・トランスフォーメーション手法では初歩的な、デジタルトランスフォーメーションのリスク評価とKPIの設定や管理が不明確であることに起因している。

BPMは技術導入の成功を保証できるのか?

私たちが料理をするとき、確かに料理を作るためには主な材料が必要だが、より良い味を出すためには「秘伝」のソースや調味料も必要になる。
例えば、ハンバーガーを作る場合、パティとパンが主な材料だが、パティに塗るソースによって味が変わる。企業がデジタルトランスフォーメーションに着手しようと決めたとき、企業には明確な目標設定が必要であるが、BPMはデジタルトランスフォーメーションを計画するための手法である。
したがって、BPMはテクノロジー導入を成功させるための主成分や材料の1つである。一方で、ビジネス部門に特有の才能とパーソナライズされたデータ駆動型の文化は、このデジタル時代において優れたパフォーマンスを発揮するために重要な役割を果たす「秘伝の」ソースとなる。

ゲント市のデジタル化の例に戻ると、ゲント市はBPMN業務フロー図を当初から作成することでサイロ化を逃れ、BPMライフサイクルの手順を取り入れ、組織のデジタル革新に成功した。包括的なビジネスプロセスを作成した後、既存のプロセスを即興的に修正し、「ビルディングブロック」アプローチと呼ばれるデジタル化の原則に基づいたプロセスを作成した。すべてのサービスが、カスタムデジタル・チェーンのパイロットプロジェクトのスコープに含まれた(税金、環境、市民サービスの業務)。デジタル化プロジェクトは、ビジネス担当とIT担当のプロジェクトマネージャーが共同で実施した。2016年、ゲント市では、BPMの統合前と比較して、デジタルトランザクションの数が急増したことが速報値で示された。税金のデジタル申告の割合は5.5%(2014年)から28.9%(2016年)に増加した。

また、プロセスの透明性を実現し、各部門へのアクセスを一元化する手法としてBPMを採用したSparda-Bank Hamburg社[8]の事例がある。これにより、同じプロセスでも事業所によって処理が異なるというプロセスの弱点を把握することができたという。彼らはiGrafx BPMNツールを活用することで可視性を高め、プロセスと連動した新しい技術を導入し、サブプロセスのデジタル化に成功した。

要点

一言で言えば、プロセスとは、組織におけるデジタル化、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの取り組みの基礎となる部分である。両利きのBPMは、イノベーションを追求するためにデジタルテクノロジーを活用し、持続可能なデジタルトランスフォーメーションの取り組みを確立するために推奨される方法である。
同様に、BPMは組織の一気通貫プロセスを解明し、正しいデータや深い考察、潜在的なプロセスを特定し、最終的にはデジタル時代の破壊的技術に対応するための戦略策定をサポートする。

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