ブックレビュー:The Back of the Napkin
(邦題:描いて売り込め!超ビジュアルシンキング)

2022/6/6

著者: Aqmar Zakaria

要約

デジタル時代において、ビジュアルシンキングによる問題解決スキルがこれまで以上に求められています。ダン・ロームの著書「The Back of the Napkin」は、マネージャー、経営者、コンサルタント、起業家など、複雑な情報を整理して理解しやすいビジュアルに変換する必要のある立場にある人達に是非読んでいただきたい本です。本書は一見理解しにくい複雑かつ重要な情報をただシンプルにしたり省略するのではなく、<6><6>ルール や、SQVIΔの概念(Simple、Quality、Vision、Individual、Change(Delta=Δ)の頭字語)を使い、実際に可視化する前に、事前に情報を整理してどの図形を使うか考える方法を教えてくれます。また、ビジネスプロセスモデリングの分野では、プロセスマイニングはAIを活用してコンピューターシステムから抽出された複雑なデータを処理して分かりやすいフローチャートやダッシュボードに変換するデータ可視化の良い例です。
本書は、博士課程時代 の私に複雑な情報を効果的に伝える方法を教えてくれたメンターを思い出させてくれました。 「可視化の一番の目的は何か?」。
「The Back of the Napkin」は異なる文化や専門知識のレベル間でアイデアを共有するときに、複雑な概念や見解をシンプルな図面に分解することの重要性を再確認させてくれます。

タイトルにまつわるお話

本書「The Back of the Napkin」は2008年に出版されて今年で14年になります。本のタイトルは、著者ダン・ロームの実体験に基づく素晴らしい発見に由来しています。 ダン・ロームは、ビジネス可視化とコミュニケーションの明確さに関する5冊の国際的なベストセラー本を残しています。本書の物語は、彼の同僚に、参加するはずだったイギリスの教育専門家へのスピーチを穴埋めするように頼まれたことがきっかけです。話を引き受けた翌日、ローム氏はニューヨークからイギリス・シェフィールドに出張することになりますが、スピーチの詳細についてはほとんど説明を受けていませんでした。彼はスピーチ当日の朝、ロンドンからシェフィールドに向かう電車の中でイギリス人の同僚からスピーチのタイトルを教えてもらいます。同僚にプレゼンテーション資料を説明するよう言われた時、土壇場の出張だったこともありローム氏は事前準備をしていませんでした。そこで、彼のIT業界に関する知識や経験をもとに、関連するポイントをナプキンの裏に描きました。

そのころ絵や図で説明することが定着している現代に比べて、ビジネスにおける図解が珍しかった2000年代初頭に、この本は読者に対して図形を用いて問題を解決するということを啓発しました。 ここでいう図形というのはオブジェクトとしての図はもちろん、チャートやグラフなどアイデアや複雑なデータを可視化して分かりやすくターゲットオーディエンスに伝えることを指しています。

ビジュアルシンキングの問題解決アプローチ

ビジネスの成功の核心は問題解決にあり、ローム氏の本は主にマネージャー、経営者、コンサルタント、起業家などに向けてビジュアルシンキングによる問題解決方法を紹介しています。ローム氏は「ビジュアルシンキングは人間生来の能力を利用することを意味する。私たちの目と心の目で見ることで、見えないアイデアを発見し、素早く直感的に展開して他人にも簡単に理解してもらえるように情報を共有することができる。」と言います。簡単に言えば、ビジュアルシンキングは考えを整理し、複雑な情報を処理して理解しやすいビジュアルに変換する手段であり、情報を単純化することではありません。

シェフィールドへの道すがら、ローム氏は信頼性があり、必要な時にすぐポケットから引き出して見ることができるような問題解決のガイドライン、あるいは万国共通のビジュアルシンキングのガイドラインを用意する必要があることに気付きます。そして、情報を実用的かつ効果的に可視化して伝える為にはどのようなタイプのビジュアルを使うべきかを判断するためのフレームワークやガイドラインを編み出しました。情報を伝えるための適切なフレームワーク<6><6>ルール(図1)を展開し、読者が前もって考え、視覚化する前に図形を決められるようにSQVIΔ(図2)を作成したことで、ビジュアルシンキングを単純化し、初心者でもスキルを簡単に取得できるようにしました。

図1:<6><6>ルール

図2: SQVIΔモデル

データの可視化

データの可視化は、数あるビジュアルシンキングアプローチの1つです。科学分野では、昔から調査結果を共有するために使用されてきましたが、いつしか科学領域を離れ、ビジネス領域でも一般的にデータの可視化を行うようになりました。データの可視化は、収集されたデータを活用し、視覚的なコンテキストに変換することによるストーリーテリング(物語を語って伝えること)の技術です。複雑な情報の伝達手段として図を使うと人間の脳は膨大なデータセットの根底になるパターンや傾向を把握することができます。ビジネス間でのデータの適用は、データ可視化ないし「dataviz」が主要な力になります。 IDCのレポートによると、データ量は指数関数的に増加し続け、2025年までに175ゼタバイトに達すると予測されています[1]。昨今のビジネス市場において、データ可視化は必須スキルになっています。ビジネスで成功するために多くの組織がデータ分析に大きく依存しているため、データ分析の需要は大きくなりつつあります。

プロセスマイニングとビジネスプロセスフローチャート

プロセスマイニングは、人工知能技術(AI)を利用したデータ可視化プラットフォームの良い例です[2]。たとえば、ビジネスプロセスの可視化や、各プロセスの頻度分析によるロボティックプロセスオートメーション(RPA)における自動化候補の特定、ソーシャルネットワークによる各従業員の作業量のチェックなど、企業に溜まったITシステムデータセットから特定のメトリックの基礎となる情報を視覚化するためのツール・プラットフォームがプロセスマイニングです。部門または現場全体の統括をするマネージャーの方には、プロセスを最適化して運用効率を上げるためにも、プロセスマイニングをお勧めします。

図3: プロセスマイニングの概念図

興味深いことに、ローム氏の著書の中にある5番目のフレームワーク(図1の「How」を参照)では、<6><6>ルールとSQVIΔに従って“How=どのようにして”という質問に答える図形としてフローチャートが採用されています。ビジネスプロセスフローチャートは、連続するビジネスプロセスを図形で表現するだけでなく、タスクと関連アイテム(担当者)との関係性や、生成されるアウトプットも可視化します。弊社ISOLでの私の経験に基づいてお話しすると、通常フローチャートは、ビジネスプロセス標準化のために作成され、標準化されたビジネスプロセスを参考にしながらどのようにビジネス目標を達成していくのか関係者に認識させる役目を果たします。それに加え、ビジネスプロセスフローチャートは、最終的にビジネスがより良い品質管理と従業員への理解を実現出来るような作業手順を定義するのに役立ちます。さらにビジネスプロセスの可視化は、プロセス改善のためにボトルネックや不要なステップを追跡する目的もあります。

ビジュアルコミュニケーションを意識するようになったきっかけ

私は学生のころ、とある国際会議に向けてプレゼン内容を準備している際に初めてビジュアルシンキングの重要性や、図を利用してアイデアを伝える方法を学びました。博士課程 時代で私のメンターになってくれた教授が私を優れたプレゼンターそしてコミュニケーターになれるよう導いてくれ、私はその国際会議で最高のプレゼンテーションの1つ(博士課程の候補者カテゴリー)として受賞することができました。メンターになってくれた彼女には、心から感謝をしています。科学研究はどれも複雑な情報ばかりで、アイデアを皆さんに分かりやすく伝えることは決して容易ではありません。しかし、複雑な研究を誰もが理解できるようにしなければ、誰にも理解されず、その発見がどのように役立つのかを知ることができないのです。私の発見やアイデアは、私の研究内容と社会にもたらす価値を皆さんに理解してもらった時に初めて実り多いものになります。だからこそ、プレゼンターとなる人は、誰もが分かりやすい形でアイデアを伝える能力を身に付けることが不可欠です。

ビジュアルコミュニケーションのタイプ

図 4: ビジュアルコミュニケーションの4つのタイプ

ハーバードビジネスレビュー(以下HBR)[3]の記事では、2×2の4象限(図4を参照)に基づく4つのビジュアルコミュニケーションについて説明しています。4つの各象限は、ビジュアルコミュニケーションの異なる性質と目的を表しています。
私が研究のためにどのようにして多くのデータを扱ったかを思い出してみると、当時、物質の結晶構造を分析するためによく使用したエックス線回折計(XRD)という名前の機械がありました[4]。その機械は分析結果をExcelに取り込んでデータセットを生成してくれますが、そこでデータの可視化を行わないとせっかくのデータセットは無駄になってしまいます。そこで、図を作成する前に仮説を立て、図がどのような詳細を示すかを予測し、皆さんに私の発見を理解してもらうために、そして今まで発見されなかった洞察を皆さんに伝えるために、データを可視化する目的を明確にする必要がありました。図4と照らし合わせると、私の例は視覚的発見と視覚的確認のタイプに当たります。

おさらい

ビジュアルシンキングと問題解決スキルについての理解を深めていく間に、シンプルかつ、重要な4つのポイントを見つけました。

1. 何よりもまず、伝えることの背景やゴールを明確にすること
2. 話を聞いてくれるオーディエンスを知ること
3. ローム氏の提案にあるように正しいフレームワークを活用すること(<6><6>ルールとSQVIΔモデル)
4. 図形は誰にでもわかりやすく簡単にすること

ローム氏の本で言及されている基本的な図形を使った問題解決スキルを習得すると、視覚的なコミュニケーションをする能力は発達しますが、優れたビジュアルコミュニケーターになるためには、HBRの記事で説明されているように、より広い概念と戦略的なアプローチが必要です。

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