ブロックチェーン:サプライチェーンマネージメントのゲームチェンジャー

2022/5/13

著者: Chanisara Kajornchaikul, Miki Sakai

目次

はじめに

過去数十年の間、ブロックチェーンはよく耳にする言葉になりました。 ブロックチェーンは金融業界(特にビットコイン¹などの暗号通貨)で広く採用されていますが、その他の業界においてはブロックチェーンの実用化はまだ初期段階にあります。 ブロックチェーンアプリケーションの標準はありませんが、サプライチェーンの領域には大きな期待が寄せられています。

こんにちは。ISOLのアソシエイトDXコンサルタントのチャニサラです。 本記事ではブロックチェーンの基本的な概念と、ブロックチェーンがサプライチェーンアプリケーションにもたらす可能性について説明します。 そして最後に、サプライチェーン業界におけるブロックチェーンの主な課題について考察します。

ビットコイン

ビットコイン:支払処理を簡易化するためにピアツーピアネットワークを使用したデジタル通貨 

ビットコインとは?

まず、ブロックチェーンの適用について深く掘り下げる前に ブロックチェーンの概念について簡単に説明します。
従来型またはパブリックブロックチェーンは、コンピューターネットワークまたはノード間で共有される分散型データベースパブリック、またデジタル元帳と呼ばれます。これは、ノードに格納されているいくつかのデータブロックで構成されています。 当事者間またはトランザクション間でやりとりを行っている間は有効なトランザクションはブロックにパック(格納)されます。
トランザクション数がブロックの上限に達すると、ネットワークまたはピア・ツー・ピア(P2P)ネットワーク内のすべてのユーザー(ノード)にブロードキャストされます。 次に、ノードは、システムの参加者の過半数のコンセンサスメカニズムに基づいてトランザクションを検証および認証します[例: プルーフオブワーク(PoW)、プルーフオブステーク(PoS)など]。 ノードによるトランザクションの検証・合意後、新しいブロックが既存のメインブロックチェーンに追加されます。

ノード

グローバルなピアツーピアネットワークに参加しているコンピューター、ラップトップ、サーバーなどのあらゆるデバイス。これには、情報の共有、確認済みのトランザクション履歴のコピーの保存、トランザクションの検証と認証の4つの主要な機能があります。

PoW

プルーフ・オブ・ワークは、ある当事者(証明者)が他の当事者(検証者)に特定の計算量が費やされたことを証明する暗号証明の形式です。

PoS

プルーフ・オブ・ステークは、関連する暗号通貨の保有量に比例してバリデーターを選択することで機能する、ブロックチェーンのコンセンサスメカニズムのクラスです。PoWスキームの計算コストを回避するために行われます。

図1. ブロックチェーンの仕組み [1]

サプライチェーンにおけるブロックチェーンの導入メリット

サプライチェーン管理(以下、SCM)にブロックチェーンを適用することの主なメリットは下記のとおりです。

  1. トレーサビリティと透明性の向上
  2. データの整合性、セキュリティ、データ信頼性の確保
  3. スマートコントラクトによるトランザクションの自動化
  4. ユーザーのプライバシー保護
  5. 金銭取引の物理(時間・場所)的制約の緩和

1. トレーサビリティ・透明性の向上

ブロックチェーンは、在庫情報やキャッシュフロー等の情報を一気通貫で透明性が高く改ざんが難しい履歴などのトランザクション情報を提供します。 実際、輸送上のバリューチェーンの多くの部分は、輸送費の回収や支払トラブルの解決、配達証明の確保など依然多くのマニュアルプロセスが残っています。 このような時間と労力を要するマニュアル作業は、間違いや生産性の損失に繋がり、SCM の最適化に従事するための労働力を奪う可能性があります。 従来の紙の文書に代わる認証済みのデジタル文書、つまり電子化されたL/C、船荷証券、保険証券、請求書、および出荷指示書は、この問題に対処するためのブロックチェーン技術の適用例です。近年の産業用IoTと5G技術の進歩により、今日のSCMシステムは、製品の供給から配送などすべてのサブプロセスをシステム上で実行できるようになりました。
ブロックチェーンの技術はサプライチェーンのステークホルダー間でやり取りされるデータの透明性を実現します。 ブロックチェーンは、同じデータセットの独自のコピーを維持(および更新)するために複数の関係者に依存するのではなく、信頼できる唯一の情報源となります。 従来の第三者が提供する集中型システムには高い信頼性が求められるため、サプライチェーン全体を網羅するシステムを導入することが困難でした。 しかし、生産から消費までのサイクル全体にわたってブロックチェーンを使用することにより、注文、受領、支払、および保証やライセンスなどのデジタル資産は、物理的な資産レコードと一緒に追跡できます。 その結果、お客様、サプライヤー、ディーラー、小売業者の信頼が高まります。

製品の原産地やトレーサビリティに関する情報を利用したブロックチェーンベースのシステムを活用したプロジェクトがあります。 たとえば、Everledgerプラットフォーム[2]等のブロックチェーンベースのプラットフォームは、ダイヤモンド貿易取引とサプライチェーンの信頼性の強化が目的で開発が進められました。 このプラットフォームは、コンプライアンス、国などの情報のマイニングやデータ研磨の承認機能を追加することにより、サプライヤーに対する小売業者の透明性と可視性を向上させます。 一目で、在庫全体、持続可能性の要件、およびダイヤモンドのコンプライアンスに関する情報を調べることができます。 ブロックチェーンの技術により、このプラットフォームは製品の原産地情報を保証し、不正検出の強化を可能にしています。

図2. ブロックチェーンによるスマート・マニュファクチャリング・プロセス [1]

2. データの整合性、セキュリティ、データ信頼性の確保

暗号化ハッシュ関数は、ブロックチェーンのセキュリティのアルゴリズムです。 従来、ブロックチェーン上のすべてのレコードは、ハッシュ値と呼ばれる不変の暗号署名で個別に暗号化されていました。ダイジェストと呼ばれる 一意の出力は入力と出力の間に相関関係を示さないため、計算から実際のデータを識別または逆引きすることは実際には不可能です。 ダイジェストの出力は、入力のわずかな変更でも影響を受けます。 したがって、ハッシュ関数は、ブロックチェーン上のデータの整合性と不変性を保護するために一般的に使用されます。ブロックチェーンのセキュリティは高いため、SCMソリューションのセキュリティを強化することで、データレコードを変更したり、データを悪用することをできなくしています。 ハッシュ関数を応用したブロックチェーン技術を使用することによりデジタル元帳を変更、ハッキング、また欺くことは困難です。

ハッシュ値

数学の関数を使用して入力データを変換する特定の固定長値出力を指します。

図3.入力データを少しでも変更するとハッシュ値が元の値より大幅に変わる可能性がある(アバランシェ効果)[3]

アバランシェ効果

暗号化アルゴリズムの望ましい特性で通常、ブロック暗号と暗号化ハッシュ関数で、入力がわずかに変更されると、出力が大幅に変更されます。

3. スマートコントラクトによるトランザクションの自動化

ブロックチェーンの効率的、公正、リアルタイム、機能的、高い信頼性、安全なメカニズムを支えているのはコンセンサスアルゴリズムです。これは、ブロックチェーンのさまざまな参加者による貢献の合法性を決定するルールの集合体です。 言い換えれば、スマートコントラクトは自動強制デジタルコントラクトです。 利害関係者間で特定の条件または契約条件が満たされると、スマートコントラクトなどのブロックチェーンベースのアプリケーションがトランザクションを自動的に実行し、エンコードされたコントラクトがプライバシーとセキュリティに準拠していることを確認できます。

図4.ブロックチェーン・スマートコントラクトのライフサイクル. [1]

当事者の1人が契約に違反すると、すぐさまスマートコントラクトに記載されているペナルティが発生し、契約を破ったユーザーは保証金が自動的に削減される場合があります。 サプライチェーンの場合、サプライヤーと顧客の間でスマートコントラクトを作成できます。 顧客が製品を受け取り、すべての要件が満たされると、ユーザーからサプライヤーのブロックチェーンウォレットにすぐに資金を自動的に転送できます。

図5. 物流業界におけるスマートコントラクトの適用事例 (出典: DHL [5])

4.ユーザーのプライバシー保護

ブロックチェーンは公開されている元帳ですが、ブロック内の情報を表示できるユーザーを制御できるように設計できます。 ブロックチェーンネットワークには、ユーザーのプライベートデータの保護の役割を担うサードパーティーはいません。その 代わり、各ユーザーが他人と繋がりコミュニケーションを確立し、取引し、契約に署名したりするために、複数のアドレスが生成されます。 その結果、ユーザーの個人情報は公開されず、ブロックチェーン内のユーザーのプライバシーを保護します。プライバシー保護用の仮名はパブリックブロックチェーンを介してユーザーに提供できますが、許可されたプライベートブロックチェーンでは事前認証により、ネットワークで完全な匿名性が保持され、 サプライチェーン上の処理はスムーズに実行され、ID非公開の正当な参加者との協力を可能にします。

ブロックチェーンを用いると合法的に検証されたプライベートトランザクションのプライバシー保護が可能になる

5.金銭取引の物理(時間・場所)的制約の緩和

ブロックチェーンのすべての機能は、ユーザーが物理的にどこにいるかに関係なく利用できます。 ブロックチェーンの分散型ネットワークを利用して、サプライチェーンのすべての合法な参加者はどこからでも輸送のライフサイクルに関与し、処理効率を上げることができます。 例えば、取引に関与する各国の規制により、銀行を介した支払処理が数か月かかる場合がありますが、支払処理をグローバルブロックチェーンネットワークを利用したデジタル通貨取引に置き換えることでトランザクションの確認から支払履行までの処理をわずか数分で完了させることも可能です。

暗号通貨とはブロックチェーンテクノロジーを用いてすべてのトランザクションを記録および保護するデジタル通貨

SCM業界におけるブロックチェーン技術適用上の課題

表1. サプライチェーンのプレイヤー、現状の制約およびブロックチェーン技術を適用するメリット[6]

ブロックチェーン技術は、SCMに革命を起こす可能性を秘めています。しかし、今日の課題は、SCMをこのテクノロジーと継ぎ目がないように統合することです。サプライチェーンは通常、多くの複雑なプロセスで構成されています。したがって、ブロックチェーンを最大限に活用するには、サプライチェーンとロジスティクスプロセスに関する幅広い知識が重要です。
サプライチェーンの領域は、この新しい技術の適用の初期段階にあります。一方、多くの企業はブロックチェーンの使用を開始することに熱心です。その中には、ISOLが展開をサポートしたブロックチェーンベースのSCMプラットフォームを開発した日本のシステムインテグレーター大手が含まれます。 弊社はSCM、ロジスティクス、製造業の領域に精通しているため、各領域のサプライチェーンにはさまざまな運用タイプがあることを認識しています。ISOLはブロックチェーン技術のオプションを検討する前に、お客様の実際のロジスティックオペレーションとITシステムの間のギャップを埋めるためご支援致します。ビジネスとITの強力なコラボレーションがなければ、ブロックチェーンの導入を成功させることは難しいでしょう。
強力なテクノロジーであっても、ロボット工学、IoT、ML、またはAIとの統合ソリューションがなければ、あらゆるビジネス上の課題を単独で解決することはできません。ロジスティクスの新しい価値を解き放つための鍵は、時代遅れのプロセスを再考しデジタル時代の新しいイノベーションを採用することです。

そのため私たちISOLはサプライチェーンとIT基盤の構築にご協力致します。

参照

[1] Imteaj, A. and Amini, M. H. (2021) Foundations of Blockchain Theory and Applications.
[2] A Blockchain Platform for Transparency and Traceability (2021) Everledger.
Available at: https://everledger.io/industry-solutions/diamonds/ (Accessed: March 5, 2022).
[3] Wikipedia contributors (2022) Cryptographic hash function, Wikipedia, The Free Encyclopedia.
Available at: https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Cryptographic_hash_function&oldid=1077451766.
[4] IPWITHEASE (2021) Hash functions and what they offer for security in cryptography, IP With Ease.
Available at: https://ipwithease.com/hash-functions/ (Accessed: March 15, 2022).
[5] Heutger, M. (2018) Blockchain in logistics: Perspectives on the upcoming impact of blockchain technology and use cases for the logistics industry, Dhl.com.
Available at: https://www.dhl.com/content/dam/dhl/global/core/documents/pdf/glo-core-blockchain-trend-report.pdf (Accessed: March 10, 2022).
[6] Litke, A., Anagnostopoulos, D. and Varvarigou, T. (2019) “Blockchains for supply chain management: Architectural elements and challenges towards a global scale deployment,” Logistics, 3(1), p. 5. doi: 10.3390/logistics3010005.
[7] Al-Farsi, S., Rathore, M. M. and Bakiras, S. (2021) “Security of blockchain-based supply chain management systems: Challenges and opportunities,” Applied sciences (Basel, Switzerland), 11(12), p. 5585. doi: 10.3390/app11125585.

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