【特集】物流改革① 「物流現場に業務フローがないのは何故か」

2019/8/2/ Masayuki Kinoshita

はじめに

今回、「物流業務」をテーマにコラムを連載することとなりました、株式会社イノベーティブ・ソリューションズの木下です。
私はこれまで、一貫して物流システムの営業・プリセールス、システム導入と改善活動に携わってきました。様々な業種業態のお客様の元で大変貴重な経験をさせて頂き、多くのことを学ばせて頂いてきたのですが、10年以上の過程の中でも大きな疑問となっていたことが、「何故物流現場は変わらないのだろう」です。

多大な投資を伴うシステム導入に数多く携わってきましたが、多くの場合、新しいシステムが導入されただけでは、肝心の業務内容に大きな改善は見られないという現場を数多く見てきました。何故、物流現場は「カイゼン」が思うように進まないのか。

システム導入プロジェクトにとって「Go-Live」は大きなマイルストーンであり、多くの場合これがゴールになっています。しかしながら、物流現場にとってはシステムの「Go-Live」は新しいプロセスによる業務の始まりです。如何に業務の効率性や品質を高めていくかが問われており、経営層から見るとここからがシステム投資に見合う回収の始まりです。しかしながら、既存業務と新業務に目立って「カイゼン」された業務は少なく、またシステム稼働後も「カイゼン」活動が上手く定着化していない場合もあるようです。
自らをソリューション・ベンダーと呼んでいた立場からしても、事業会社側のこのような状況は由々しき事態です。

名刺には「ソリューション・コンサルタント」という肩書が記載されていた時代も長くありましたが、上記のような結果を踏まえると、これまでお客様のどのような「課題」を「ソリューション」したと言えるのか。自分自身に対してこのような問いかけをすること早15年。如何に「物流現場を変えられるか」という視点で様々な学習、検討、取組を行ってきた中で、昨今一つの新しいソリューションの種を発見し、それを育成・発展させる機会を得ることが出来ました。このソリューションのご紹介やご説明は別の機会でさせて頂くこととし、このコラムでは、私の経験を元に、物流現場や各種プロジェクトでは何が起こっているのか(或は何が起こっていないのか)、何故そのようなことが起こるのか、そしてそのような事象に対してどのように取り組んできたのか、幾つかの例と共に紹介していきたいと思います。

第1回 物流現場に業務プロセスフローが無いのはなぜか。(物流現場の業務プロセスフロー事情)

ITプロジェクトや業務改善プロジェクトを開始する際、多くの物流現場で直面する最初の課題が、現行の業務の流れを定義したドキュメントがないことです。一般的に「業務プロセスフロー」と呼ばれているドキュメントですが、プロジェクトの対象となっている倉庫内の業務や、調達プロセス全般にわたる業務など、それぞれの範囲における業務を整理・分解し、具体的に誰が・いつ・何を・どうするのかということが記述されていることが求められます。
プロジェクト開始前に物流現場を訪問すると、ほぼどの倉庫にも非常に業務内容に精通した熟練者がいらっしゃいます。プロジェクト開始前後にサイトビジット等でお伺いした際に、これらの方に倉庫内をご案内頂けると、非常に細かいレベルまで教えて頂けるので、一通りの業務内容を把握するのにとても効果的です。

但し、それらの業務内容を記述したドキュメントがないことが多いのです。「サイトビジットの前に大枠を掴んでおきたい」、「サイトビジット後にも振り返りをしたい」という理由で、ご説明された内容が記述されたドキュメントを共有頂きたいという依頼に対する回答は、「ありません」ということが多くありました。何らかのプロジェクトでも実行されていない限り、物流業務は日々の販売・調達・生産業務の一環で、常に活動が行われています。
熟練者を中心に適切に業務が遂行されている限り、これらの日常的に行われる業務を改めてドキュメントに落とすような必要性が特に現場レベルでは感じられることがないというのが、実際のところのようです。

前出のクライアントとシステムベンダーとのやり取りは、プロジェクト開始前に頻繁に起こるやり取りの一例ですが、一部の業務範囲においては各種マニュアルが例外的に準備されている場合もあります。例えば一部システム機能の操作手順書だったり、返品工程の再生処理の作業手順書だったり、非常にきめ細かい処理を必要としている業務で、実務にあたって参照すべきものが必要な業務については、システムベンダーや熟練作業員が予め用意することもあります。
しかしながら、これら「マニュアル」が対象とする業務範囲は非常に限定的で、例えば倉庫業務全般から見た場合の網羅性には欠けてしまいます。私がこれまで多く携わってきたのは倉庫業務ですが、倉庫内で行われる業務は多岐にわたっており、またそれら前後の関連性も高く、複数の階層にわたって構成されています。その中で「マニュアル」と位置づけられているドキュメントは、粒度の細かい部分を記載したものとなります。

表1:業務プロセスの階層と記述粒度の関係について

表1は業務プロセスの階層と記述粒度について、倉庫業務を例にして記載したものです。「マニュアル」の位置づけは第4階層以下となり、主に「手順」を記述したドキュメントです。
一方の「業務プロセスフロー」は第3階層以上の粒度でそれぞれ対象の業務を記述したドキュメントを指していますので、それぞれの位置づけは粒度の違うものです。上記のように、物流現場では習熟困難な特定の業務においては手順書レベルのドキュメントを必要としている一方、通常業務・主要業務においては業務プロセスを記述したドキュメントは必要としていないということが、私がこれまでの経験上感じてきたことです。

では、「物流現場に業務プロセスフローがない」ことで何が実際のところ困るのでしょうか。実際、上記で記載したように、多くの物流現場では「業務プロセスフロー」が無い状態でも業務は実施されており、企業活動は継続されています。ここで立ち返りたいのは、「何故、物流現場は変わらないのだろう」、更には「何故、物流現場ではカイゼンが思うように進まないのだろう」という冒頭で投げかけた疑問です。「業務プロセスフロー」の存在が、これらの問いに対する何らかの答えを導いてくれるのではないか。ここ何年間はそんな感覚を元にプロジェクトを組み立てクライアントと共に取り組んできました。

次回のコラムでは、実際のプロジェクト現場で「業務プロセスフロー」が無いことによりどんな弊害があるのかについて体験をベースに書いてみたいと思います。