マレーシアのデジタル成熟度の現状に迫る

2022/4/13

Author: Aqmar Zakaria, Nao Hosoe

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はじめに

こんにちは。株式会社イノベーティブ・ソリューションズのアクマールです。Google、テマセク・ホールディングス、ベイン・アンド・カンパニーが共同で発表したレポートによると、人口42億人を抱えるアジアのデジタル経済は急速に成長し、今後4年間で200%の成長が見込まれます[1]。世界で最もデジタル化が進んでいる国の2つは、APAC(アジア太平洋地域 以下はAPAC)に属するインドとインドネシアであり、今後10年間の新規のインターネット利用の半分はアジアで発生すると言われています。アジアは成長の可能性を秘めており、少なくとも今後5年から10年でさらに成長していく勢いが見られます。さらに、アジアはCOVID-19大流行前の技術変革のおかげで、経済危機をなんとか耐え抜くことができました。この記事ではアジア、特に私の母国であるマレーシアのデジタル化の成熟度について深堀りしていきます。

まず簡単に、私が日本で働くようになった経緯をご紹介します。私はマレーシアで生まれ育ちましたが、20歳から学士号を取得するためにフランスで3年間過ごしていたので、大人になってからの生活の大半は海外で過ごしています。フランスでの勉強を終えた後は一度マレーシアに戻り、修士課程のために来日してから今年で4年目になります。今回マレーシアのデジタル成熟度について書くことができてとても嬉しく思います。この記事を書こうと思ったきっかけは、3カ月前のとある大手BPMベンダーのエグゼクティブとの打ち合わせまでさかのぼります。両社共にAPAC市場へのビジネス拡大という共通ゴールがあったため、私のチームはAPACにおけるデジタル成熟度についてプレゼンを行いました。チームメンバーの出身国であるAPACの3ヶ国、マレーシア、タイ、日本を比較した調査は1カ月以上に及びました。

投資の優先順位の変化

COVID-19のパンデミックが発生して以来、世界中の組織がデジタルテクノロジーを利活用し、ビジネスへの影響を軽減するための努力を行ってきました。パンデミックの間、従業員はリモートワークをするようになり、企業は事業運営においてデジタルテクノロジーの適応を余儀なくされました。世界中でオミクロン株による感染が続いていることから、リモートワークの傾向は今後もまだまだ続くことが予想されます。また企業側も、従業員がリモートワークの方が生産性が向上すると気づきました[2]。デジタル化はもはや選択肢の一つではなく、企業が競争力と回復力を維持するための必須条件です。このような理由から、APAC地域の企業はビジネスプロセスを最適化し、パンデミックおよびその後の成長を維持するために、デジタル導入の取り組みへの投資を優先する方向に転換しており、デジタルの時代は「未来」ではなくまさに「今」起こっていることを認識しています[3]。

Digital Evolution Scorecardーデジタル改革スコアカード

マレーシアにおけるデジタル成熟度の適切なフレームワークについて情報を探したところ、Bhaskar Chakravorti氏らによって書かれた記事を見つけました。[4]。Chakravorti氏によるとDigital Evolution Scorecard 2020(デジタル改革スコアカード 2020)は、デジタル化の現状、勢い、そして各国のデジタル進化はパンデミックに対しどのように対応しているのか把握するため、タフツ大学のフレッチャースクールとマスターカードによって開発されました。

このデジタル改革スコアカードのおかげで対象国のデジタル成熟度の主な指標が明らかになりました。スコアカードは、世界90か国の160の指標に基づいて、図表1で定義されている4つの主要な推進要因について言及しています。スコアカードで使用されている指標をよりよく理解するために、著者にメールで質問をしたところ、共同研究者であるRavi Shankar氏が親切に返信してくれました。彼が共有してくれたデジタルインテリジェンス指標のウェブサイトのリンク[5]にあるデータのおかげで、より深く指標を理解することができました。誰もが自由にアクセスできるオープンデータから直接知識を得られる体験は印象的でした。

図表1: デジタル改革スコアカードと4つの主要推進要因

デジタル化の成熟度

一般的に、デジタル成熟度とは、デジタルテクノロジーの採用努力とその状況を示す尺度を表します。これらには、インフラの整備や、そのための大規模投資、組織の環境、およびデジタルまたはIR4.0テクノロジーの可用性が含まれます。デジタル成熟度が高い国には、高度なインターネットのインフラが整っており、国家レベルでデジタルエコシステムを確立するための政府の支援ポリシーや多くの技術革新=イノベーションがあります。反対に、デジタル成熟度が低い国々は、昨今のデジタル技術の導入に苦戦しています。

冒頭で述べたように、このデジタル成熟度については、大手BPMベンダーとのミーティングのプレゼンの一部です。会議中、欧米諸国、特にアメリカではいかにデジタル技術が発展しているかを学びました。一方、アジア諸国は依然としてデジタルトランスフォーメーションで苦戦しています。会議後に初めて知りましたが、欧米企業は、すでにハイパーオートメーションまたはインテリジェントプロセスオートメーション(IPA)に着手しているようです。Gartnerによると、“ハイパーオートメーション”は2020年の注目すべき戦略的テクノロジー・トレンドのトップ10に含まれる注目の概念です[6]。

マレーシアにおけるデジタル化の成熟度

これらの情報は、上記スコアカードの4つの主要要素の考え方に基づいて整理されています。各要素の定義とスコープは図表1に示しています。

  • 供給条件-マレーシアのデジタルインフラをサポートするためのインフラ整備と主要な投資

まだ先進国には及びませんが、マレーシア政府はインターネットインフラのアップグレードに積極的に取り組んでいると言えます。昨年、ネットワークの通信速度を500Mbpsから10Gbpsに改善するために、1,210万米ドルの予算が割り当てられました。2024年までにマレーシアにおける3つの主要都市クアラルンプール、プトラジャヤ、サイバージャヤでは5Gが利用可能になり、マレーシア国民の80%が5Gを使用できるようになる予定ですが、少し遅れをとっています。次に、マレーシア政府の2つの主要な国家政策と、インフラ整備をアップグレードするための主要な投資について説明します。

1)国家光ファイバー接続計画ーNational Fiberisation and Connectivity Plan (NFCP) (2019 – 2023) とJENDELA

マレーシア政府はNFCP[7]において、人々の5Gネットワークの普及と回線の品質改善を計画しています。手頃な価格で高品質なデジタル回線への接続が可能になると、生活の質や生産性が向上し、最終的にマレーシアのデジタル経済の成長が促進されます。ただし、一部の地域では、3Gネットワ​​ークすら最小限のネットワークレベルとして設定されていませんでした。その後パンデミックが起こり、政府はより高速なインターネット整備の緊急性に気づきました。そのため政府は全国の住宅地で4Gの整備を目標とするデジタルインフラ整備計画、「JENDELA」[8]を策定し、全国の3Gネットワ​​ークサービスを終了させ、5Gネットワ​​ークを徐々に展開しています。JENDELAの四半期レポート(2021年7月1日〜9月30日まで)によると、全ての顧客が3Gネットワ​​ークからの移行を終え、通信事業者の95.4%が3Gネットワ​​ークサービスを停止しています。

2) マレーシアのサイバーセキュリティによるインダストリー4.0(第4次産業革命)のサイバーセキュリティーガイドライン2020-2024

パンデミックの渦中で世界中の企業が大規模なデジタル変革を遂げている今、回復力のあるサイバーセキュリティインフラの構築は、脅威にさらされている貴重なデジタル資産を保護するための重要な推進力になります。国家のサイバースペースを確保するというビジョンのもと、政府はサイバーセキュリティ戦略2020-2024 [9]を開発および策定し、1)効果的なガバナンスと管理、2)法律の枠組みと執行の強化、3)イノベーション、テクノロジー、R&D(研究開発)と産業の触媒作用と分類、4)能力の獲得・向上、認知と教育の強化、5)グローバルコラボレーションの強化、という5つの柱を通じてサイバー攻撃を予測、検出、抑止、および対応するためのローカル機能を強化する目的で関連機関を設立しました。

さらにインダストリー4.0(以下IR4.0)において、マレーシアのサイバーセキュリティはデジタルテクノロジーが業界全体で広く採用されている製造業がデータ利用の規則違反やサイバー攻撃にさらされるため、サイバーセキュリティガイドラインを設定しました。

3) マイクロソフトは「TogetherwithMalaysia」への投資を約束

2021年5月[10]、マレーシア政府はMicrosoftと提携し、包括的なデジタルエコノミーの成長促進のため、マレーシア初のデータセンターを立ち上げました。マレーシアのデジタルエコシステムは今後5年間で46億米ドル相当の収益を生み出すと見込まれています[11]。

  • 需要状況–製造およびロジスティクス業界

需要状況については、弊社の主要顧客にも大きく関係する製造およびロジスティックス業界のみに焦点を当ててお話しします。マレーシア中央銀行とマレーシア統計局の2019年のGDPレポート(図表2)によると、製造業はマレーシアのGDPの割合を2番目に大きく占める業種です。インターナショナルデーターコーポレイション(IDC)によると、マレーシアの製造業におけるデジタル成熟度レベルは様々ですが、そのうち83%は、競争力を高めるためにデジタルプラットフォームを採用する必要があることを認識しています。類似するレポートで、マレーシアの製造業における今後のテクノロジーアプリケーションへの投資は主に次の5つになると予測しました。

1)エンタープライズリソースプランニング
2)サプライチェーン管理アプリケーション
3)生産実行システム
4)生産ダッシュボード、データ分析とBIおよびAIアプリケーション
5)販売と運用/統合ビジネスプランニング[12]

マレーシアでは、人々のデジタル化は平均よりも高く[13]、eコマースとロジスティックサービスの成長にも貢献しています。パンデミックは、マレーシアを含む世界中の多くの国で消費者行動の変化を促進し、eコマース業界の成長を引き起こしました。またマレーシアの物流業界は、製造業、石油、ガスなどの主要産業を支援してきており、マレーシアのロジスティクスの市場規模は、2020年の376億米ドルから、2026年には550億米ドルへと成長を続けると予測されています[14]。また、eコマース市場の成長に合わせ、eコマースロジスティクスの企業は昨今のIR4.0から派生したテクノロジーである自動化、ロボット工学、IoT、ビッグデータ分析、クラウドコンピューティングなどを、社内ソフトウェアシステムに取り入れ日常業務の運用と高需要のニーズに応えています。[15]。

図表2:2019年業界別マレーシアのGDP
  • 組織が置かれている環境

組織が置かれている環境は、国のデジタルエコノミーの成長を促進するためのエコシステムを提供する上で重要な役割を果たします。私の調査によると、マレーシア政府はデジタル化の波に乗り、マレーシアが第4次産業革命から取り残されないようにMalaysia Digital(ドバイ万博2020でソフトローンチ済み)、MyDIGITALやマレーシアデジタルエコノミーブループリント、Industry4WRD、National IoT Strategic Roadなど複数の国家政策を立ち上げています。今回はMyDIGITALとIndustry4WRDについて簡単に紹介します。

MyDIGITAL[16]においてマレーシア政府は、2030年までに3つのフェーズ下で達成されるべき6つの推進国家政策とターゲットを次のように示しました。
1)公共サービスのDX化の推進
2)デジタル化による経済競争力の強化
3)デジタルインフラ整備の実現
4)有能なデジタル人材の育成
5)誰もが恩恵を受けることができるデジタル社会の構築
6)信頼できる安全かつ倫理的なデジタル環境整備の推進

この国家政策は、マレーシア国家計画第12版や2030 共通繁栄ビジョン(the shared prosperity vision)に沿って作成され、計画書に記載されている3つのステークホルダーである社会、企業、政府の参画が、設定された目標を達成する上で重要な役割を担っています。計画書は利用者への恩恵を中心に考えられており、社会に大きなインパクトを与えることは必至でしょう。

2018年10月13日、マレーシア政府は、国内の製造業とその関連サービスのDXを促進することを目的とした第4次産業革命に関する国家政策であるIndustry4WRDに着手しました[17]。最終的な目標は、マレーシアの製造業がスマートテクノロジーを通じて競争力を高めることです。Industry4WRDは、地域の企業でIR4.0テクノロジーを採用することにより、製造業を変革する国家政策であり、中小規模の製造業がIR4.0テクノロジーを採用し、最終的にマレーシアをハイテク産業の中心地にするという国の目標があります。マレーシア政府はIndustry4WRDを通じて、資金調達や専門知識の提供などの重要な側面で支援し、また、中小規模製造業がIR4.0を積極的に取り入れられるよう支援します。

  • イノベーションと変革

マレーシアにはデジタルエコノミーの成長を促進し、デジタル化を加速させるエコシステムの開発責任をもつ複数の省庁や政府機関、マレーシアデジタルエコノミーコーポレーション(MDEC)、マレーシアグローバルイノベーション&クリエイティビティセンター(MaGIC)、Malaysian Research Accelerator for Technology and Innovation(MRANTI)が存在します。

その上、いくつかのマレーシアの最先端スタートアップ企業であるエアロダイン(Aerodyne、マレーシアのドローン企業)やカーサム(Carsome、マレーシアの中古車プラットフォーム)が市場に革新をもたらすサービスを提供するなど、マレーシアは才能と革新に溢れています。Aerodyneはマレーシアに拠点を置く企業であり、人工知能を搭載したドローンによる情報収集サービスを提供しており、Drone Industry Insights2021[18]では世界1位にランクインしています。

まとめ

マレーシアにはデジタルエコノミーの成長を促進する適切かつタイムリーな計画や法律がありますが、目標の達成はエコシステム周辺の実装や運用に依存しています。私もマレーシア人として、今後10年間でマレーシアが先進国の仲間入りができることを望んでいます。また、弊社はマレーシアへの事業拡大も視野に入れております。当社のソリューションやサービスにご興味がありましたら、ぜひご連絡ください。

参照

[1] https://www.bain.com/insights/e-conomy-sea-2020/
[2] https://www.weforum.org/agenda/2021/11/remote-work-employment-employeers-covid-pandemic
[3] IDC-Maxis Digital Transformation in Malaysia 2020 Whitepaper, Digital Transformation Executive Sentiment Survey 2019
[4] https://hbr.org/2020/12/which-economies-showed-the-most-digital-progress-in-2020
[5] https://digitalintelligence.fletcher.tufts.edu/trajectory
[6] https://www.gartner.com/en/information-technology/insights/top-technology-trends?utm_medium=social&utm_source=linkedin&utm_campaign=SM_GB_YOY_GTR_SOC_SF1_SM-SWG-TTT22&utm_content=&sf251590510=1
[7] https://www.mcmc.gov.my/skmmgovmy/media/General/pdf/MEDIA-STATEMENT-ON-NFCP.pdf
[8] https://www.malaysia.gov.my/portal/content/31120
[9] https://asset.mkn.gov.my/wp-content/uploads/2020/10/MalaysiaCyberSecurityStrategy2020-2024.pdf
[10] https://news.microsoft.com/en-my/2021/04/19/microsoft-announces-plans-to-establish-its-first-datacenter-region-in-malaysia-as-part-of-bersama-malaysia-initiative-to-support-inclusive-economic-growth/
[11] https://www.businesstoday.com.my/2021/04/19/microsofts-investment-in-malaysia-to-generate-us4-6-million-in-new-revenues/
[12] IDC 2021 Manufacturing Insights Survey 2020
[13] World Bank Malaysia’s Digital Economy Report 2018
[14] Malaysia Freight and Logistics Market – Growth, Trends, COVID-19 Impact, and Forecasts (2021 – 2026)
[15] MIDA e-Newsletter Feb 2021
[16] Malaysia Digital Economy Blueprint
[17] https://www.malaysia.gov.my/portal/content/30610
[18] https://droneii.com/drone-service-provider-ranking-2021

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